写経の用意


 写経の歴史を調べると、使用された紙はその時代における最高級の紙が用いられている。写された経典が聖典であり、写された経文が長い間保存に耐えることが必要であったからである。むかしは紙は貴重品であったが、現在は豊富に出まわり写経のための用紙も市販されている。市販されている用紙の中から数撞選び、一度書いてみて書きやすいものを選ぶようにするとよい.

   筆

 筆にも多くの種類がある。同じ材質であっても、作り方の微妙な差異によって書きやすいものと書きづらいものとある。
 写経の場合は細字で楷書体であるから、筆先が揃い、良く利くことが肝心である。毛先が切れたり、脇毛が出たり、抜毛がするのは好ましくない。これも写経用紙と同様、二、三選んで自分にとって書きやすい筆を選ぶ。安い筆を選び、書き潰してまた買うよりも、少々高くとも良い筆を選ぶ方がよい。実際に使ってみてあきないし、ながい目でみれば経済的である。雑な筆というのは写経する場合、心の乱れにも通ずるし、字のでき上がりも悪い。
 新しい筆を買ったら、指先か水で筆先の糊気をとり、良く摺り上げた墨を含ませる。筆先の三分の一ぐらいまでおろし、たっぷり墨を含ませて練習用紙に書いてみる。このおろし方が少ないと、墨の含み方も少なく筆先も利かなくなり、文字の美しさも冴えたものを失う。筆は書き終わった時も大切で、ついた墨を水で洗い新しい時の状態にもどすようにする.

  墨

 写経に必要な墨はごく僅かである。だから筆と同様よい墨を選びたい¢墨汁や墨液を使う人が最近多いが、写経は墨をする段階から始まるものであるから、墨汁などは避けたいものである。墨汁墨液を実際使ってみると、ねばり、筆のいたみなどすべての点で支障をきたす。やはり上質の墨で摺り上げた文字は美しいものである。実際書いてみても墨の方が書きやすい。
 使用する水を吟味するのも大切なことで、むかしは朝一番に井戸から汲んだ水を用いたり、寺院においては最も清浄なところから湧き出る水を用いるとか心したものである。普通一般の家庭では、井戸はおよそ見受けられないので水道の水を使用するが、この場合はしはらく蛇口から水を流し、その上で使用する水を汲むようにするとよい。

 硯

 硯にも上下さまざまある。高価なものから安い物までさまざまである。一般家庭で写経する場合はわざわざ高価なものを選ぶことはない。使用する墨の量もわずかであるところから小さな硯でよい。
 問題はその硯を美しく使うことである。写経が終わったらきれいに洗って、墨かすがついりねばった墨が付着しないようにする。

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