納棺と整理、整頓


 死装束が終わり、遺体は納棺される.葬儀社による祭壇の準備が終わり、遺体も安置されるわけであるが、棺の蓋の釘打ちはしないことになつている。
 納棺の時、故人が特に愛用していたもので、火葬の時燃えやすいものを同時におさめる。子供なら玩具類や、女性であればハンドバッグなど入れるわけであるが、出棺の時に花を入れたりするから、その時のことも考えて納棺すベきである。神棚は扉を閉め、白い紙をはって封ずる。不幸が起きると、心の乱れと共に家の乱れが起きるものである。家の中の整理、整頓には心を
配りたいものである。
 なお神棚の扉を閉め白い紙をはったり、時には顔写真のある額にも紙をはったりするところがあるが、これは神聖なものに死という穢れが及ばないように配慮するということである。そしてその神聖なものに穢れが及ぶと、また不幸が起きることを恐れるためである。整理、整頓について筆者が体験したことがある。親しいF氏が交通事故にあって不慮の死をとげられたことがある。この時夫人が病院にかけつけられ、その末期を見届けられたわけであるが、元気に家を出られたご主人がわずか一時間後に今は帰らぬ身となられたのであるから、夫人の心中際するにあまるものがあった。その時家族に臨終を告げる電話を夫人がされたが、その言葉はまことに教えられろものが多かつた。「今、お父さんは亡くなられました。こんな時にはよく粗租ができるものです。火の用心に気をつけ、来客にも見苦しくないよう準備を整え、お布団を敷いて心してお待ちなさい」気丈夫ということもあろうが、自分の主人を失つたこの時に、これだけの心配りのできるこの夫人の、厳たる態度に心から感服した次第である。